特別栽培米(農薬、化学肥料不使用)秋津穂の収穫と
今年度の風の森の仕込み

杉浦

中川

米づくりも、酒造りも
バージョンアップ

  • 中川: 稲刈り、おつかれさまです。特別栽培に切り替えて4回目の秋津穂の出来はどうですか?

  • 杉浦: おかげさまで今年は草取りがうまく行きまして、
    増収は確実ですね。お手伝いしていただいたボランティアの皆様のおかげです。
    稲刈りをする時に、去年と比べると1株が重たいと感じます。これはやっぱり嬉しいですね。

  • 中川: 昨年までは収穫前に猪が来て食べられてしまうこともあったそうで、色々と対策をされたと聞いていましたが、今年はどうでしたか?

  • 杉浦: 来てないですね。ただ、さあ収穫できるぞと思った瞬間にウンカが発生して。
    来年はウンカもなく、もっと収穫できるよう頑張りたいと思います。

  • 中川: バージョンアップですね。私たちも醸造スキルをバージョンアップさせて、いいお酒ができるようにチャレンジしていきたいです。

  • 杉浦: 今年はお米の分析もしてみたいですね。玄米中の窒素含量がお酒の出来にどう影響するのか調べたいです。
    お酒造りの設計をされる時に、窒素含量が分っているとやりやすいと思うんですよ。

  • 中川: そうですね、玄米中の窒素含量がわかると仕上がりの予想がつきやすくなりますね。

  • 杉浦: 酒米の関係で探しましたけど、窒素含量に関する研究報告があんまりないんですよね。
    ただ、酒米の指針には窒素を与えすぎてはいけないとありますから、ある程度の知見はあるんでしょうけど。

対談対談

特別栽培米(農薬、化学肥料不使用)ならではの
透明感を最大限に活かす

  • 中川: 特別栽培米を使った仕込みは今年で4回目ですが、一番違うなと思うところはお酒の味の透明感。
    推測なんですけれども、今作っていただいているお米は化学肥料を使わず有機肥料を使っているので、
    化学肥料を使っているお米より窒素が少ないのかなと思います。窒素はお米のタンパク質に含まれている成分で、
    お酒になる際にタンパク質はアミノ酸に分解されます。
    このアミノ酸が多すぎると、一般的にお酒の味がくどくなると言われているんですよね。
    なので、お米の窒素含量は味わいのキーになるんです。

  • 杉浦: アミノ酸は旨味成分ですけど、お酒の場合は多すぎると良くないということですね。

  • 中川: 今まで3回ともお米をあまり磨かずに造らせていただいてるんですけれども、
    アミノ酸の数値が低く、味わいの透明感が高いので、そういうところが特別栽培米の違いかなと。

  • 杉浦: 農学部にいた頃、化学肥料の影響について調べたことがあるんですけど、肥料の量を変えて稲を育てると、
    植物体の各部の窒素含量が変わるんですよね。施肥した分だけ増えるんですよ。
    うちの稲を見てもらったらわかるように、慣行栽培のものと比べるとやはり収穫量は少ない。
    化学肥料を使うともっと早く大きく育つし、色も濃くなるんです。それは窒素の影響ですね。野菜も有機肥料で育てるとゆっくり育ち、
    味も優しくなると言われています。窒素が多いとえぐみが出ると言いますし。そういうのはお米もおなじではないかとおもうのです。

  • 中川: じゃあ有機肥料だと自然な味わいになるということですね。

  • 杉浦: それが雑味の少なさ、味の透明感に繋がるのかなと。

稲の様子稲の様子

令和2年度の挑戦
精米歩合を70%から80%へ

  • 杉浦: うちで作ってる特別栽培の秋津穂と、現行栽培の秋津穂と、お酒にする時のつくり方に違いはあるんでしょうか?

  • 中川: そうですね、一番大きく違うのはお米の磨き具合ですね。油長酒造では秋津穂の純米酒をつくる場合は、65%精米なんです。
    発酵制御の観点から、お酒に使うお米は磨いてから使用するんですけれども、
    やっぱりお米をそれだけ磨くと量が減りますし、お酒にならない部分が増えてすごくもったいない。
    今作って頂いてる特別栽培のお米は大変貴重なものなので、できるだけ無駄なくお酒にしたいという思いがあり、
    極力磨かず酒造りに使うようにしています。去年から精米歩合65%のところを70%に変えていたんですが、
    今年はさらに80%にチャレンジしたいと思っています。
    ただ、そうなるとお米が溶けにくくなるんです。お米が溶けてくれないとお酒になりませんから、大問題で。
    しかも秋津穂は酒造好適米ではなく飯米なので、そもそも溶けにくい。

  • 杉浦: それでもお酒にできるんですか?

  • 中川: はい、できます。麹の割合を増やすことで対応します。麹はお米のでんぷんを糖に変えるのですが、
    その割合を増やすとお米が溶ける力がアップするんです。難易度は高くなりますが、自信はあります。

  • 杉浦: お米の磨き度合いを減らすと、味にはどんな差がでるんですか?またどんなお酒造りを目指していらっしゃるのか、お聞きしたいです。

  • 中川: 油長酒造では、酒米の山田錦、雄町、露葉風等では80%精米のお酒も造っています。それがすごく魅力的な酒質で。
    何がそんなに魅力的なのかと言うと、大地のエネルギーというか、お米の持つ個性とか、複雑味っていうのがすごく色濃く感じられて。
    以前80%精米の秋津穂で一度、試験醸造したんですけど、65%精米のものよりさらに個性がしっかり出たんです。
    なので、特別栽培米でもきっといい結果が出るのではないかと。
    秋津穂そのものの個性と、杉浦さんの特別栽培米の透明感がしっかり表現できるお酒を目指しています。

  • 杉浦: お話を聞いて、ますます興味が湧きました。
    やっぱりお酒造りって、自分の理想とする、求めているお酒に近づけるために大変努力されているんだなとつくづく思いました。
    今年の仕上がりもとても楽しみですね。

稲の様子